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2003年度 三木淳賞奨励賞
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内容:
私は写真を撮るというのを口実に彼に近づいた単なるエロがっぱ。被写体の彼を視る幸運にありつきたくて、そしてたまたまそうできているのに過ぎない。
芸術という思わせぶりな煙幕を用いて、彼はもちろん、その家族もろともこの不気味な恋の業火に引きずりこもうとしている。
本当なら6回目の撮影予定だった今日、出がけの電話で、彼から「遠くへ出かけるから」と突然断られた。暗々裡にこの尋常ならぬ情熱の正体を見抜いているのだろう。
「来週は?」とすがるような問いかけに、彼は「たぶん」と答えた。おそらくこのままでは、来週も再来週も撮影は許してもらえないだろう。(まだ夏休みが10日以上残っているのに…)
炎天下で携帯電話を持ち、冷や汗をぬぐいながら、「撮影はいいからこれまでに撮った写真を見せたい。1時間でもいいから時間を作ってほしい」と喰いさがるが、少し間をおいて、彼はやはり「ダメ」と言い放った。
電話を切ったあと、しばらくぼんやりしていたが、その後必死で考え始めた。――もう一度、否、今後ずっと彼を撮り続けるためのよい方法はないものだろうか。
そして中間報告書めいた物を提出し、被写体の彼が作者に撮られる煩わしさよりも、作者が彼を撮りたいという感情のほうが勝っていることを知らしめようと思いついた。
作者は彼に恋している。しかし生臭い性愛の対象としてではない。彼をとりまく美しい時空間に激しく嫉妬しながら、腹いせよろしくシャッターを続けざまに切る。カラー82点。 |
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作者略歴:
1971年東京に生まれる。02年「ゴッドファーザーJr.」(新宿ニコンサロンJuna21)。 |
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