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第11回(2009年) 三木淳賞
Gim Eun Ji「ETHER」

受賞作品内容

想像の世界を開くのは、ごく普通の生活空間にある些細な隙間である。
作者の作品は、作者の記憶が出発点。記憶というものがひとつのイメージを引きだし、作者はそれを再現する。そして作者の記憶に基づいて、作品を見る人を、見るものの世界と想像の世界を行き来させる。それは作者の生活のある一面を取り出し、作品に再現させることにより、馴染みあるもの、馴染みのないもの、また、事実とフィクションの世界を行き来させることである。
また、テーマと対象物を解釈する一次元的なアプローチを抜け出て、心理的なドラマを促進する語り手としての多次元的変化を導入することである。同時に、特定の感情、関連した情報が網のように織られていることから、湧き出てくるのである。
このことが私たちにもたらすものは、
・快適ではない複雑な感情
・肯定的、否定的な相対する感情
・あるひとつの面に偏ることのできない複雑な感情の表現
・傷つきやすい心
・未来の心を投影する、際限のない普遍性
・現代人の心理的貧弱さ
・概念と意味の漠然としたつながり
のようなものである。
Etherというのは、光の波を運ぶ媒体というコンセプトである。アインシュタインの相対性理論の後では、このEtherは意味がない。この概念は、今では証明をする必要のない想像的なコンセプトである。
西洋では、Etherは新鮮できれいな空気に使われている。東洋では、中国の哲学者Dam Sa Dongの解釈は、Etherは世界に充満している細かい粒子で、五感では感じることができないもの。また、日本の岩井俊二監督の「All About Lily Chou Chou」という映画では、メンタリティの媒体としているようである。
また、Etherは、実際のものであり、世の中に存在することを可能にする光の媒体である。同時に、Etherは、閉ざされた心が他の人の心の音を聞く媒体でもある。
作者は、Etherが持つこの特性に関心をもっている。
作者の作品、それは日常の状況における不可思議な語り手として、想像力を刺激するものであり、これらの作品というものは、想像的な材料のコンセプトに基づいている。
作者のEtherは、現実的な世界に溢れている不可思議な想像や感情で、作者の作品の基礎となっている記憶が媒体となり、見る者の想像力をかきたてる。

選考理由

ごく普通の、誰もが見逃してしまいそうな繊細な瞬間にこそ想像の扉がそっと開くのかもしれない。イマジネーションの世界とは日常とかけ離れた特別な現実ではないとギム・ウンジさんの写真は語りかけてくる。
彼女の作品は彼女自身の様々な記憶を出発点としている。記憶はあるイメージとともにたち現れる。そのイメージを手掛りに、そのイメージを膨らましたり、変形させたりしながら再現し、写真に撮る。そしてそうした記憶に基づいた彼女の生活のある断面が表現されることにより、見る者は、見ることと想像すること、日常と非日常、さらには事実と虚構の間を微妙に揺れ動く。
彼女の作品は一元的な、一つの視点からの見方を拒否する方向を常に抱えている。テーマや被写体について解釈するアプローチを拒み、いくつもの関係が交錯した一種の心理的なドラマへ、現実とフィクションが綴れ織りのように複雑に織り込まれた新たな次元へと見る者を誘ってゆくのだ。写真の新しい想像力を指ししめそうとする意欲作である。

プロフィール

Gim Eun Ji(ギム ウン ジ)

1984年韓国ソウル生まれ。2008年韓国中央大学写真科卒業。09年31th JoonAang FINE ARTS PAIZE, Seoul受賞。
写真展に、個展2008年boda, Seoul、同年Gana Art space, Seoul、2009年Nikon Salon, Shinjuku、Nikon Salon, Osaka、グループ展2006年Fantasy, Seoul、同年boda, Seoul、同年Chung Ang Art Center, Anseong、2007年Chung Ang Art Center, Seoul、2009年Hangaram Art Museum, 31th JoonAang FINE ARTS PAIZE, Seoul、同年Museum of Fine Arts Houston, Chaotic Harmony, U.S.A. などがある。

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