Nikon Imaging
Japan
プレミアム会員 ニコンイメージング会員

第8回(2006年) 三木淳賞
石川 直樹「THE VOID」

受賞作品内容

撮影地は、ニュージーランドの北島、先住民のマオリの聖地として受け継がれるいくつかの原生林である。太平洋島嶼部には、海図やコンパスなどの近代計器を用いず、星や風、潮流や鳥などあらゆる自然現象を頼りに舟を目的地に導く古代航海術が受け継がれている。作者はその航海術を知るマオリの古老を訪ね、カヌーが生まれる神聖な場所を教えてもらった。そこは深い森だった。
原生林の奥へ入り込んでいくと、自分がどこへ向かっているのか、どこにいるのかさえもわからなくなるような感覚に襲われる。タイトルである『THE VOID』は、「空間」「無限」「すき間」といった意味をもっている。マオリの聖地は、そこを入り口にしてどこへでも伝っていける一種のエアポケットとして機能していた。すべての森はひとつの森であり、ひとつの森はすべての森に通じている。
人々を島へ導いたカヌーは、この地で生まれ、海を渡り、やがて朽ちて再び森へと還っていく。はじまりであり、終わりでもあるこの土地の先には、島の過去と未来、そして広大な海が常に在り続けている。そのような場所の存在をほんの少しでもわかちあえたらと、カラー約20点を発表する。

選考理由

受賞作品は、星や自然現象だけを頼りに自らの位置と進むべき方向を導きだす古代航海術の原郷といえる、カヌーを切り出す聖なる森を撮影したものだ。しかしそこに写しだされているのは森というより、私たちには見えず、聞こえず、感知するのさえ困難な、ある大きな力の循環であるといえるかもしれない。だから実は写真ではそうした力の存在などとらえられないのだが、ただその力に向き合う人の姿勢だけは写しとめることはできる。作者はこの姿勢のとり方を多くの過酷な冒険や旅のなかで学んできた。
あるとらえがたい瞬間や場所へ、大きな力のあらわれへ、真摯に心を向けてゆくこと、人が自然宇宙と交感し、自然宇宙とともに生きていくための道と知恵がこの森の記録には精妙に写し出されている。

プロフィール

石川 直樹(イシカワ ナオキ)

1977年生まれ。東京芸術大学大学院美術研究科博士課程在学中。多摩美術大学芸術人類学研究所研究員。2006年、さがみはら写真新人奨励賞受賞。
個展:2003年「for circumpolar stars 極星に向かって」(エプサイト、東京)、05年「THE VOID」(新宿ニコンサロン、東京)
主なグループ展:2004年「On The Edge of Nowhere 二つの異なる“自然”」(kuspace wien、ウィーン)、「フォトドキュマン STILL & MOVE」(杜のホールはしもと、神奈川)、05年「SKY HIGH」(KPOキリンプラザ、大阪)、06年「New Visions of Japanese Photography」(雅巣画廊、上海)、「epSITE retrospective 1998-2006」(エプサイト、東京)
写真集:「POLE TO POLE 極圏を繋ぐ風」(中央公論新社、2003)、「THE VOID」 (ニーハイメディアジャパン、2005)
パブリックコレクション:上海視覚芸術大学

ニコンイメージングプレミアム会員
ニコンイメージング会員