自然と共生したコミュニティ創り―そのインスピレーションを得るため、一年間、東ヒマラヤ(インド)のシッキムとダージリンの村に住まわせてもらった。
ヒマラヤのシッキムに最も古くから暮らすレプチャ族は、自分たちのことをRong(ロン)と呼ぶ。ロンの言い伝えでは、人は死んだら川を遡ってヒマラヤ山脈の一つ、カンチェンジュンガへ還っていくという。何百年もの間、ロンの人々は豊かな森の中で、森の精霊と対話しながら生きてきた。
17世紀にチベットから来たブティア族がシッキム王国を建国し、20世紀初めには英国の政策下、多くのネパール系の人々が移り住み、1975年にシッキム王国はインドに併合された。
ロン、ブティア、ネパリの諸民族が混在し、急激な変化にさらされながらも、変わらず続く大地に根ざした暮らし。
人と自然の繋がりから生まれた知恵、卓越した身体能力、焼き畑で育てられた伝統的な穀物とその多様性、村の人たちの、あたたかさ、逞しさ、誠実さ。
見えてきたのは、人として生きることの原点だった。
(小倉 沙央里)
小倉沙央里さんは、いわゆる写真家ではないし、またそれを目指しているわけでもない。小倉さんの撮る写真は、むしろ写真家というプロフェッショナルな存在に対して、あらためて写真を撮ることの意味や功罪について考えさせずにはおかないだろう。
小倉さんはこれまで、世界の様々な場所で調査、研究活動を続けて来た。例えば、北米をキャンプ生活で横断しながら環境教育を学び、ブータンでは国民総幸福を基盤にした教育政策に触れ、能登ではNPO「おらっちゃの里山里海」で活動し、ジンバブエでは干ばつに強い伝統穀物について調査してきた。
今年度の三木淳奨励賞を受賞した展覧会「Ron に学ぶ」は、東ヒマラヤの自らをRonと呼ぶ人々が暮らす村に一年間住んで、グローバルな開発や環境破壊が進む中、Ronの人々の暮らし方の知恵に学びながら、人と自然との繋がりを取り戻す糸口を見つける試みのなかで残された、「ささやかな備忘録」とも呼べるようなイメージから構成されていた。
エキゾティックなイメージを求めて海外に出かけ、そこに暮らす人々からその肖像や風景を収奪するような撮影行為が目立つ中で、学びと共感にもとづく小倉さんの写真のあえかなつぶやきは、しかし森に響く木霊のようにくり返し私たちの胸を打つ。
(選評・北島敬三)
2007年学習院大学法学部政治学科、3年卒業FTコース卒業。2008年に米レズリー大学大学院へ。北米大陸をキャンプ生活で横断しながらフィールドワークを通して生態系や環境教育について学んだ。在学中にはUNESCOニューデリーオフィスでインターンし、ブータンの国民総幸福を基盤にした教育政策についても学ぶ。
2010年に修士課程修了後、能登のNPO「おらっちゃの里山里海」を経て、2011年3月からインドの環境系シンクタンク「ATREE」の客員研究員として一年間ヒマラヤで活動。
2013年から米カリフォルニア大学バークレー校で「環境プラニング」を専攻。ヒマラヤでの土地利用の変化について研究をまとめると共に、気候変動、それぞれの土地の生態系に適応した環境デザインについて学び、修士号を取得。
サンフランシスコのNGO「アライアンスフォーラム」を経て、2016年3月から4月までジンバブエにてNGO「ムオンデ・トラスト」と共に干ばつに強い伝統穀物について調査。
2017年1月からカナダのブリティッシュコロンビア大学にて博士課程に入学。
2017年夏から4ヶ月間、パリUNESCO本部にて、アフリカの遊牧民たちのと共に現地の伝統的な知恵を生かし、気候変動に適応していくプロジェクトに参画。