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2016年度 三木淳賞奨励賞 高橋 智史

受賞作品内容

カンボジアでは近年の経済開発に伴い、国内外の開発企業が現政権と結びつき、開発のために人々の土地を強制収用する事件が全土で多発し、内戦後のカンボジアの、最たる社会問題の一つになっている。30年間の支配体制を敷くフン・セン政権との癒着と不正が開発の陰にはびこり、多くの人々が居場所を失い、涙を流している。

写真展の舞台となっているボレイ・ケイラ地区は、カンボジアの首都プノンペン市内の中央に位置している。同地区は、2004年から都市開発の動きに巻き込まれ、2012年1月3日に、約380家族が、家々を強制的に破壊された。彼らはそれ以降、スコールを防ぐことすら困難な劣悪な環境のバラック小屋での生活を強いられながら、奪われた家と土地を取り戻すために、幾度弾圧されようとも、巨大な権力に対して声を上げ闘い続けている。その中心にはいつも女性たちがいて、彼らはデモの最前線で、大きな勇気を武器に、権力と対峙を続けている。その動きは、奪われた権利を取り戻すという枠を超え、30年間の支配体制に対する、変革の願いへと繋がっていく。彼らの切なる願いを見つめ続けた約3年間の記録。
(高橋 智史)

カラー約40点。

受賞理由

「Borei Keila -土地奪われし女性たちの闘い-」は、カンボジアの経済開発に伴う土地強制収用により行き場を無くした人々の、奪われた権利を取り戻そうとする闘争を巡る3年がかりの写真シリーズだ。長期にわたって現地に住み、地道に取材や聞き取りを重ね、現実のひだをすくいとってゆくオーソドックスなドキュメンタリーのスタイルだが、追い詰められた人々の切実な願いや祈りがひしひしと伝わる労作だ。

タイトルの「Borei Keila」は、写真の舞台となる首都・プノンペン中心部に位置する地域の名である。同地区は、10年以上前から都市開発の動きにのみこまれ、多くの家族が次々と家々を強制的に破壊された。追われた人々はバラック生活を余儀なくされながら、土地と家を取り戻すため巨大な権力に立ち向かい続けている。そのデモの最前線で活動の中心となっているのは常に女たちであり、彼女たちの勇気と覚悟は、土地闘争の枠組みを超え、30年間の支配体制を敷く現政権や現状を変革しようとする、国民全体の意志のシンボルにまでなっている。そうした弾圧を乗り越える闘争の姿に写真家自身も大きな力を得て、本作は単なる傍観者には到達できない映像の厚みを秘めた写真群となっている。

(選評・伊藤俊治)

プロフィール

高橋 智史(タカハシ サトシ)

1981年秋田県秋田市生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒。フォトジャーナリスト。

フォトエージェンシー「Getty Images」contributor。プノンペン(カンボジア)在住。

大学在学中の2003年からカンボジアを中心に東南アジアの社会問題の取材を開始。これまでにカンボジアや東ティモール、スマトラ沖大地震津波被災地、アフガニスタン、ラオス、ベトナムなどを取材。07年からカンボジアの首都プノンペンに拠点を移し、同年から約4年間、同国の社会問題や生活、文化、歴史を集中的に取材し、秋田魁新報連載「素顔のカンボジア」で発表。現在もプノンペンに拠点を置き、政府と開発業者が結びついた土地の強制収用問題をはじめ、人権問題に焦点を当て、Cambodia Daily、CNBC、ABC(Australia)などの英字メディアへの掲載を中心に、カンボジアでの取材活動を続けている。

主な写真展に、13年フォトプレミオ「トンレサップ-湖上の命-」(コニカミノルタプラザ)、14年「素顔のカンボジア・出版記念写真展」(さきがけホール)、15年「2014年第10回「名取洋之助写真賞」受賞作品写真展」(富士フイルムフォトサロン)がある。

写真集に、『湖上の命-カンボジア・トンレサップの人々-』(窓社)、フォトルポルタージュ『素顔のカンボジア』(秋田魁新報社)がある。

受賞歴に、07年「日本大学芸術学部 芸術学部長賞」、13年と14年に2年連続で「国際ジャーナリスト連盟(IFJ)日本賞」大賞、14年「2014年第10回「名取洋之助写真賞」」がある。

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