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第30回(2005年) 伊奈信男賞
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下瀬 信雄写真展 「結界 V」
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内容:
作者のライフワークとなったシリーズ「結界」の5回目の個展である。
作者が、自然と人間の関わり合いを、「結界」という仏教用語の思想を通して見つめて約10年が経った。前回(4回目)の写真展で本シリーズの一応の区切りをつけ、別のシリーズを模索しつつあった作者だが、萩に帰ってみたところ、実はその足もとに今まで見つけることのできなかった自然のダイナミックな生態系を次々と感じたことからまとめたのが今回展示する作品である。
我々は自然から学ぶ以外何もない。日頃見慣れている風景が、ある日突然に新鮮に見えてくるときがあるが、そんな発見を感じて欲しいという作者の思いが込められた作品である。モノクロ50点。
選考理由:
下瀬信雄氏は 、ニコンサロンを発表の場として、1977年「萩」から2005年「結界V」まで、計10回の個展を開催している。
「結界」シリーズは、1996年を初出とし、題名に明らかのように5回目。構想から十余年に及ぶライフワーク。その質、量においてもすでに内外で注目されている。
作家としてのデビュー時代(70年代)の作風は、氏の生活の場である山口県萩を風物詩にとらえたものであったが、90年代に入ると、それまで混在していた植物が特化しはじめる。
日常生活の周辺に自生する植物が“群落”的手法によるフレーミングで頻度高く現われるが、その頃から「結界」と命名し、シリーズが開始されることになる。
「結界」は仏教用語からの引用だが、氏はすでに50年前の幼少の頃、漫画本の中で出合って、この言葉に魅かれてきたという。
自然と人間のかかわり合いを「結界」という仏教思想を通して見つめてきた十余年。シリーズは小さな自宅の裏庭から始まったという。やがて森羅万象を萩に発見しようとする作業へと拡大していくことになる。知を超えて、ダイナミックに生成する自然を直視することで、我々が獲得してきた現在の文明の質を問おうとする行為―作品―に、深い思想性と鋭い批評性が感じられる点が、審査員一同の高い評価を得て伊奈賞の決定となった。
また、撮影からプリント作成までの卓越した技能は他に追従を許さぬ域にあり、精進を重ね獲得した高度な技能が、完成度の高い作品化へと導いているという技能的な側面の高い評価もあった。
この受賞は遅きに面した感も否めないが、自然との共生が問われている今、さらなる高い評価につながると思われる。
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プロフィール:
1944年満州新京生まれ。山口県萩市で育つ。東京綜合写真専門学校卒業。萩市芸術文化奨励賞、山口県芸術文化振興奨励賞、山口県文化功労賞、日本写真協会新人賞をそれぞれ受賞。
写真展に、「凪のとき」「風の中の日々」「結界」シリーズを銀座ニコンサロン、新宿ニコンサロン、大阪ニコンサロン、山口美術館、福岡市美術館などで開催。ニコンサロンでの個展は10回を数える。
著書・写真集に、『HAGI・萩』(写真集・求龍堂)、『萩の日々』(講談社)、『下瀬写真館の春夏萩冬』(エッセイ集・近代文藝社)などがある。
また、作品は米国プリンストン大学、山口美術館にコレクションされている。 |
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