大島洋は紛争の世紀ともいえる20世紀節目の10年間、エチオピアの市井の人たちと視線を合わせてきた。作品は19世紀植民地主義の圧政に象徴される歴史的不条理を、エチオピアに眼差しを収斂させることでその影を明かし、いまなお止まぬ混乱と紛争からの救いを求めているかにも見える。吟味に吟味が加えられ、大型の印画紙に刻印された美しい作品には、等身の眼差しのもと、救いと希望の根源である人々の強さと優しさが確実に定着している。「世界の膿を掴むことも写真の極みに到達することも望んでいないが、ウジェーヌ・アジェがジプシーや老娼婦や物売りと視線を重ねた至福の時間と、孤立した彼の心中のナゾに触れることができた」とする、彼の表現者としての精神性こそが受賞の所以の根幹と見る。
1944年岩手県生まれ、写真家。
写真展「三閉伊」、「ナダール・テレビジョン」ほか
写真集・著書=「ハラルの幻」、「アジェのパリ」ほか