ボーダレス化するアジア都市を主題としてきた山内道雄の新しい対象は、返還を間近に控えた香港だ。この作品は、返還へのカウントダウンの始まった香港の表情をエネルギッシュに観察している。日常を実に生き生きと写し出した写真展の空間は、まるでひとつの街のようにざわめいてうごめき、臨場感に溢れた。彼のスナップは香港の強烈な存在感に拮抗し、まさにこの手法が当を得た感じだ。また、香港を人間世界の模型としてみる想像力も溢れている。国境が溶け合って行く現代世界の状況を想像させる意味での抽象性を紡ぎだす特性も著しい。世界の状況を洞察し、ヴィジュアライズする手法としての写真力、この存在を示した意味は大きい。
1950年愛知県生まれ。早稲田大学卒業。東京写真専門学校(現・東京ビジュアルアーツ)卒業。フリーカメラマン。