写真を撮るという行為をあえて生業とはしないで、写真制作活動を継続してきた写真家鈴木清は、主に自費出版の写真集を上梓することで、写真表現を実践してきた。その方法では写真家自身のイメージ通りに写真を配し、外からの制約を受けないで独我の創造世界を構築することが可能だった。その手法と考え方を展示に移したのがニコンサロンでの個展『母の溟』であり、同作品展は時空を自由に放浪するアジア志向のひとりの旅人に自らを見立てた設定で、作者が母を偲ぶ私小説的な世界に泳ぐ斬新な作品である。
1943年福島県生まれ。2000年没。東京綜合写真専門学校卒。カメラ毎日「シリーズ・炭坑の町」でデビュー。以来看板描きを本業にしながら写真活動を続ける。土門拳賞、日本写真協会新人賞受賞。
写真集=「修羅の圏」「愚者の船」「天幕の街」「流れの歌」