第13回伊奈信男賞の鬼海弘雄作品『王たちの肖像』は、東京浅草は浅草寺境内で、そこに集いまた散ってゆくさまざまな人間の相貌を捉えた肖像写真群で、写っている人間はいずれもひとりづつ、つまり個人の肖像である。地方からの上京者、水商売や現業職のひと、浮浪者などありとあらゆる職業や生き方の人間コレクションでもあり、その押えられたモノクローム印画のトーンを介して被写体となっている人たちの生の哲学が伝わってくるかに思われる。強い表現力を具えた作品であり不思議な共感を呼ぶところが魅力的である。
1945年山形県生まれ。法政大学哲学科卒業の後、様々な職業に就きつつ、インドを度々放浪。84年よりフリーランスとして活躍。日本写真協会新人賞、写真の会賞、APA特選など多数受賞。 写真集=「王たちの肖像」「INDIA」「やちまた」