大都会では誰も気づかないうちに吉凶さまざまな出来事が起きている。そこには世相の矛盾や不公平さを象徴する雑多な現象を見出すことができる。長野重一のカメラはすばやくそれを捉えて、今日の社会とはどのような社会なのかを浮き彫りにする優れた説得力をそなえている。巨大な歩道橋とその下で起こった交通事故の現場や、住宅形態の変容、都会の子供たちと彼らの遊びの知恵など、都市空間ならではの人間模様がシリアスかつユーモラスに展開する作品が『遠い視線』であり、写真の記録性をよりどころとした都市論として貴重である。
1926年大分県生まれ。慶應義塾大学経済学部卒。「岩波写真文庫」スタッフを経て、フリーとなる。日本写真批評協会作家賞、日本写真協会年度賞。カメラ芸術大賞受賞。
写真集=「遠い視線」「時代の記憶1945-1995」「東京好日」