幅広い層に使いやすいデジタルカメラ
COOLPIX 4300
今、コンパクトなデジタルカメラが大流行である。読者の皆さんも、一眼レフのサブカメラとして、お手軽な記録手段として活用されているのではないだろうか?
今夜は少し趣向を変えて、私の愛機COOLPIX 4300を中心に、コンパクトデジタルカメラのレンズと特徴についてお話してみよう。
大下孝一
2002年9月に発売されたCOOLPIX 4300は、独特なレンズ回転式のスイバル機構が人気を博した上級機、COOLPIX 950~4500シリーズの姉妹機として企画されたカメラで、初心者にも便利なシーンモードを搭載しながら、露出補正、マニュアル露出など上級機の持つほとんどの機能を備えている。例えば、ホワイトバランス、階調補正、輪郭強調、感度をマニュアルで変更することができるため、銀塩カメラでフィルムを交換するように、被写体や周囲の環境に合わせて設定を変更することが可能だ。しかもフィルムと違って、1コマごとに変えられるのがデジタルカメラのうれしいところだ。
また、露出補正、感度変更といった頻繁に使う機能は、メニューからたどらなくても2ボタンの同時押しで簡単に変更できる。カメラを握ってみると、TRANSFERボタンが押しやすい位置にあることがお気づきだろうか?これは使用説明書にも書いてあるとおり、撮影時にはAEロックボタンになっているのだ。初心者にも使いやすい機種でありながら、使い込むにしたがって思いどおりの操作ができる。設計者の細かい心配りが伝わってくる機種である。
さて、135判銀塩カメラと、COOLPIXに代表されるコンパクトデジタルカメラの大きな違いはなんだろうか?一言で言って画面サイズが小さいことに尽きるだろう。COOLPIXに使われているCCDのサイズはいくつかあるが、一番画面サイズが大きいCOOLPIX 5000/COOLPIX 5700用CCDでさえ135判フィルムに比べて対角線長が約1/3.9、より小型のCOOLPIX 3100、SQ、COOLPIX 3700のCCDでは約1/6.5しかない。そのため高性能を維持しながらレンズの小型化ができるし、銀塩カメラにはない特徴が生まれてくる。
その一つが被写界深度が深いことである。被写界深度とはひらたく言えば、被写体側でピントが合って見える範囲のことで、ピントの合って見える範囲が狭い時「浅い」、ピントの合って見える範囲が広いとき「深い」というのはベテランの皆さんならご存じだろう。被写界深度は、レンズの焦点距離が短いほど、レンズのF値が大きい(絞り込む)ほど深くなる性質がある。望遠レンズを開放で撮影すると、被写界深度が浅くなり、背景がボケて被写体を浮き立たせることができるし、反対に、広角レンズ(焦点距離の短いレンズ)を絞り込んで撮影すると、被写界深度が深くなり、近距離から遠景までピントの合ったパンフォーカス写真になる。COOLPIX 4300のレンズは135判換算では38mm~115mmのレンズだが、画面サイズが小さいので、実際の焦点距離は広角側で8mm、望遠側でも24mmしかない。銀塩カメラのレンズに比べて、焦点距離が圧倒的に短いのである。そのため被写界深度が深くなるのである。(作例1)
135判銀塩カメラでは、最小錯乱円径(見た目にボケているのがわからない許容量のこと)を1/30mmとして被写界深度が求められている。画面サイズの比率から同じ基準でCOOLPIXの被写界深度を求めるとすれば、詳しい説明は省略するが、およそ135判との画面サイズの比率分深度が深くなる。およその画面サイズの比率は、COOLPIXの135判換算の焦点距離を実際の焦点距離で割ることで求められる。COOLPIX 4300の焦点距離は8-24mm、135判換算の焦点距離は38-115mmなので、画面サイズの比率は4.8倍、つまり、135判カメラの38-115mmズームに比べて4.8倍被写界深度が深いということになる。言い方をかえればF2.8の明るさでF13、F4.9の明るさでF24に絞り込んだのと同じ程度の深度が得られるのだ。(※1)そのため、4300のレンズは広角側でF2.8と、銀塩でいえば大口径レンズであるが、開放で撮影しても近くから背景までピントの合ったパンフォーカス写真が撮れるのである。逆に、COOLPIXは背景をぼかすことは苦手である。そこで被写体を引き立たせて撮影したい場合は、出来るだけ被写体に接近してアップで撮影するのがコツである。(作例2、3)
COOLPIX 4300には絞りが開放と小絞りの2段しかない。これは、上に説明したように開放でも十分な深度が得られるというのがひとつの要因になっている。そして、もう一つの要因がこの光の回折の影響である。皆さんは、レンズを極端に絞り込むとレンズ性能が低下することをご存じだろうか?光は直進するという粒子的性質がある一方、波動的な性質も合わせ持っていて、絞りの縁などで少し光が回り込むという性質がある。そのため絞り込むにしたがって、まわりこむ(回折する)光の成分が相対的に増加するため、解像力が低下してしまうのだ。収差の全くない理想的なF4のレンズでは1mmあたりおよそ400本の解像力があるが、これをF16に絞り込むと1mmあたり90本まで低下してしまう。
ふつう交換レンズでは、絞り込むに従ってレンズの収差が減少することから、絞り開放から少し絞り込んだ時に最高の性能を発揮するものが多い。しかしCOOLPIXのレンズでは、画面サイズが小さく要求される解像力がずっと高いため、絞り込むと解像はかえって低下してしまう。そのためCOOLPIXのレンズにはF16やF22といった絞りがないのである。COOLPIXのレンズは画面サイズが小さく、多くのシーンで開放で使われるため、高い性能が要求される。設計面はもとより、製造した時の高い品質がNikkorたるゆえんなのである。
COOLPIX 950以降、COOLPIXは「寄って撮れる」ことにこだわってきた。COOLPIX 4300も広角側でレンズ前4cmまで接近して撮影することができる。その秘密は機構を含めたレンズ設計にある。図1は、COOLPIX 4300のレンズ構成図である。全体として凹レンズの1群と、全体として凸レンズの2群、そして凸レンズ1枚で構成された3群の3つの群で構成され、1群と2群を図のように移動させることによってズームを行い、ピント合わせは3群の移動で行う。光学設計的にいうと、広角ズームレンズで用いられる2群ズームに凸群を加えることによって、瞳位置をCCDに最適化するとともに、1-2群で発生する球面収差を3群で縮小し、デジタルカメラに最適な高性能レンズを達成している。
この3群によるピント合わせは、望遠側に比べ、広角側ではわずかなレンズの移動で近距離にピントが合うという性質がある。そのため3群はステッピングモーターによる電子カムによって移動するが、そこで、広角側で「余った」3群の移動量をめいっぱい使ってピント合わせするようにして、レンズ前4cmというマクロ撮影を可能にしているのである。
もうひとつ、別の例としてCOOLPIX SQのレンズを図2に示す。SQのようにスイバルタイプのレンズは、1群がフォーカス群になっていて電子カムで移動させ、Middleで余っている1群の移動量を用いてマクロを実現している。このような機構によってCOOLPIX 4300は、広角側でレンズ前4cm(135判換算倍率0.74x)、望遠側でレンズ前30cm(135判換算倍率0.33x)とマイクロレンズ並の(※2)拡大撮影が可能だが、上に述べた深い被写界深度とあいまって近接撮影が手軽に行えるメリットが生まれてくる。
小物の被写体をアップで撮る時、銀塩カメラなら、被写体全体にピントがくるように相当絞り込んで撮影せねばならないが、上記したように、このCOOLPIXのレンズでは開放状態でもF13~24に絞り込んだのと同じ深度が得られるため、レンズが明るい状態で撮影することができるし、被写体全体にピントの合う絞り値の計算に頭を悩ませる必要もない。またレンズが明るいということは、その分早いシャッタースピードが切れるため、周囲が明るい状況なら、三脚にすえてじっくり撮影せずとも手持ちで手振れなく撮影することができる。毎日のお弁当、模型づくりの記録、育てている植物の成長の様子、オークションに出品する商品写真などの撮影には手軽に撮影できるCOOLPIXが最適である。(作例4)マクロ撮影は、コンパクトタイプのデジカメの最も得意とする分野といえるだろう。と、ここまでで紙面が尽きてしまった。このカメラに取り付けられるコンバーターレンズについても紹介したかったが、次回に持ち越すことにしよう。